ネロが生涯憧れ続けた場所が、アントワープ大聖堂(聖母大聖堂/ノートルダム大聖堂)でした。堂内に飾られた17世紀バロック美術の巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスの祭壇画『キリスト昇架』と『キリスト降架』は、銀貨を払わなければ見ることができない特権的な名画でした。飢えと寒さで視界が霞む中、月明かりが奇跡のように差し込み、ついにその絵を拝礼できた瞬間にネロが口にした「僕はもう見たんだよ、一番見たかったルーベンスの2枚の絵を……だからもう、すっかり満足なんだ」という言葉は、物語の最大のクライマックスです。
主祭壇に掲げられた名画『聖母被昇天』を彷彿とさせるように、薄れゆく意識の中で舞い降りてくる天使たちの昇天シーン。この演出は、チーフディレクターの黒田昌郎氏ら制作陣が「過酷な現実に打ちのめされた純粋な魂に対する、せめてもの魂の救済」として描いたものです。キリスト教的な天国への凱帰を描きつつも、現世の残酷さとの強烈なコントラストが、視聴者に拭いきれない切なさを与えています。