臨床現場の医師や看護師への取材、そして患者の手記を精査すると、診断を先送りにしてしまう人々に共通する「心理的トラップ」が浮かび上がります。
大手コミュニティサイトやSNSでの体験談には、次のような声が溢れています。
「40代半ばの健診でHbA1c 6.3%を指摘されたが、仕事の忙しさを言い訳に3年間放置した。ある日突然、視界に黒いカーテンがかかったようになり眼科へ駆け込んだら重度の糖尿病網膜症。レーザー手術を受けたが視力は完全に戻らなかった」(50代・会社員手記より)
「『薬を飲み始めたら一生やめられない』というネットの噂を信じ込み、病院へ行かずに怪しい健康茶に月2万円使っていた。結局、気づいた時には腎不全の一歩手前で即入院。もっと早く標準医療を受けていればと後悔しかない」(60代・自営業手記より)
行動心理学において、人間は自身にとって不都合な情報を過小評価する「正常性バイアス」や「自己防衛的否認」に陥りやすいことが知られています。「自分だけは大丈夫」「少し食事を減らせばすぐ戻る」という根拠のない楽観主義が、治療開始の心理的バウンダリー(境界線)を押し上げ、取り返しのつかない事態を招いているのが現場の実態です。