画面上では自由奔放に暴れ回っているように見えるバカ殿様ですが、実際の収録現場は極めてストイックな職人の世界でした。当時の番組スタッフや共演者の回想録・手記によると、志村さんはリハーサルの段階から1センチ単位の立ち位置や、効果音が鳴るコンマ数秒のタイミングに徹底的なこだわりを持っていたと証言されています。
小道具の配置、タライが落ちてくる角度、粉の飛び散り方ひとつに至るまで、美術スタッフとの綿密な打ち合わせが行われていました。「バカなことを真面目にやるから面白い」という志村さんの哲学のもと、城のセットには1回の特番で数千万円規模の美術費が投じられ、本物の木材や瓦を使用した本格的な時代劇セットが組まれていました。
また、腰元役のキャストに対して志村さんは、事前に細かな演技指導をするのではなく、「俺が何をしても素直に驚いて笑ってくれればいい」と指示していたといいます。計算された演出の中に、共演者の自然な生のリフレクション(素の反応)を共存させることが、あの唯一無二の空気感を生み出す秘訣でした。