スピリチュアルな解釈の一方で、現実的な生物学の視点に立つと、ヤモリが人家に侵入する動機は極めて合理的です。結論から言えば、「家の中や周辺にエサとなる虫が豊富に存在し、外敵の少ない快適な温度環境が揃っているから」に他なりません。
住宅の窓ガラスや網戸、玄関の明かりには、光に誘引される蛾、ユスリカ、羽アリなどの飛翔性昆虫が密集します。垂直の壁やガラス面を自在に駆け回ることができる特殊な指先(微細な剛毛による分子間力:ファンデルワールス力)を持つニホンヤモリにとって、人工照明で照らされた民家の壁は、効率よく獲物を狩ることができる「一等地」なのです。住宅のサッシの隙間や通気口から室内に迷い込むのも、光に集まった虫を追跡した結果であることが大半を占めます。
ヤモリが古くから人間と共存し、「益獣(えきじゅう)」と称えられてきた最大の理由は、その捕食対象にあります。ヤモリは人間を刺したり噛んだりする目的で近づくことはなく、家屋に害をもたらす以下の虫を貪欲に捕食します。
・ゴキブリの幼体(チャバネゴキブリ等)
・家屋の木材を食い荒らすシロアリの有翅虫(羽アリ)
・刺咬被害やアレルギーを引き起こすクモ・ダニ類
・衛生害虫であるハエや蚊
出張訪問サービスや害虫駆除の専門現場からも、「ヤモリが生息している家屋は、夜間の小型害虫の発生密度が自然に抑制されているケースが珍しくない」という報告が上がっています。殺虫剤を使わずに害虫を間引きしてくれる天然のハンターとして、ヤモリは極めて優秀な機能を果たしているのです。