シングルマザーの再婚において、最大の障壁となるのが子供と新しいパートナーとの相性です。山口もえは当初、子供たちに精神的な負担をかけまいと、田中との交際を極めて慎重に進めていました。二人の交際期間が約2年半から3年という長い歳月に及んだのは、子供たちの心情を最優先に考えた結果でした。
田中裕二が取ったアプローチは、ステップファミリーの構築において今なお語り継がれるべき見事なものでした。田中は最初から「父親」として振る舞うことを一切せず、まずは「お母さんの優しい友達」というポジションを頑なに崩しませんでした。呼び名についても、無理に「パパ」と呼ばせることはせず、山口の旧姓と名前を組み合わせた「たなかもえくん」や「田中さん」と呼ばせ、子供たちが自然に心を開くのを待ち続けたのです。
休日に山口の自宅を訪れ、子供たちと一緒に公園で遊び、宿題を見守る。そんな日々の積み重ねの中で、決定的な瞬間が訪れます。ある日、ディズニーランドへ出かけた際、長男が田中の手を握りしめ、ふと「パパになってよ」と口にしました。さらに長女からも「田中さんがパパになってくれたら嬉しい」という言葉が自然と漏れ出たといいます。
田中は後の手記やテレビ番組で、「あの瞬間、自分がこの子たちの人生を一生背負う覚悟が決まった」と振り返っています。大人の都合で親を押し付けるのではなく、子供たちの側から「家族になってほしい」と求められるまで寄り添い続けた田中の無償の愛が、再婚への分厚い扉を開いた瞬間でした。