グラブ業界において、軟式モデルといえば「薄い革を使い、芯材を抜いて即座に柔らかくなるよう仕上げる」というコストダウンと扱いやすさのトレードオフが長年の通例でした。しかし、奈良県桜井市に拠点を置くATOMSグローブ奈良工場が下した決断は、その市場常識への真っ向からの反逆でした。
現場取材で見えてきた最大の特色は、「硬式用と全く同一の製造ライン・職人・パターン設計で作られている」という厳然たる事実です。アトムズでは、軟式専用の安価な量産工程を設けていません。熟練の職人が硬式用と全く同じ裁断機、同じ縫製テンション、そして強固な化繊芯や極厚のフェルト芯を組み込んで仕立てています。
特にグラブの命といわれる革質へのこだわりは群を抜いています。名門タンナーと共同開発されたアトムズグローブ浦上レザーは、革本来の繊維密度が極めて緻密で、しっとりとした粘りと強靭なコシを兼ね備えています。軟式ボール特有の「捕球時にグラブの中でボールが弾む・潰れる」という現象を、革の張りと芯の強さだけで完全に押さえ込む設計です。これが、グラブマニアや指導者層から「硬式用そのもの」と評される最大の要因です。