取組に勝利した力士が行う相撲懸賞金受け取り方には、神道と武士道が融合した厳粛な礼法が定められています。
行司から軍配に乗せられた熨斗袋を渡される際、力士は右の手のひらで左、右、中央の順に空間を切り裂くように三度動かします。この動作は「手刀(しゅとう)を切る」と呼ばれます。その所作には深い精神的背景が宿っています。
- 左:天の恵み、五穀豊穣をもたらす神(天御中主神)への感謝
- 右:地の利、大地と土俵を守る神(高御産巣日神)への感謝
- 中央:人の和、勝負を見届ける人々や相手への感謝(神産巣日神)
また、武士が刀を鞘に収める際の残心や、勝負の神である「造化の三神」への礼拝を意味するとも伝えられています。この儀礼を終えて初めて、力士は右手で熨斗袋の束を受け取ることが許されます。手刀を切らずに奪い取るような行為は、土俵の神聖さを汚す無作法として厳重に戒められます。
土俵から下がり花道を引き揚げる力士は、抱えた熨斗袋をすぐに付け人へと手渡します。付け人は支度部屋へ戻るなり中身の現金を慎重に確認し、その日のうちに親方やマネージャーが管理する金庫へと収められます。取組直後の荒い息遣いの中で行われるこの一連の流れは、大相撲が単なるプロスポーツ興行ではなく、神事としての格式を今なお守り続けている証拠と言えます。