「エクセルが勝手に日付になる」という現象は、単なる事務作業の小規模なトラブルにとどまりません。過去には科学界や国際市場を揺るがす深刻なデータ汚染を引き起こしてきました。
最も有名な事例が、遺伝子研究分野における大規模な学術論文データの誤変換事件です。ヒトゲノム研究において、遺伝子シンボルの「MARCH1(Membrane Associated Ring-CH-Type Finger 1)」や「SEPT1(Septin 1)」をエクセルに入力した際、ソフトが自動的に「1-Mar(3月1日)」や「1-Sep(9月1日)」へ変換してしまう事態が多発しました。
学術誌『Genome Biology』に掲載された調査データによると、著名な査読付き学術誌に掲載された遺伝子データセット付き論文のうち、およそ3割(約3587件中987件)においてエクセルの自動変換による遺伝子名の破損が確認されたと報告されています。この事態を受け、国際機関であるHUGO遺伝子命名法委員会(HGNC)は2020年以降、エクセルの誤変換を防ぐために遺伝子の正式名称そのものを「MARCHF1」や「SEPTIN1」へと改名せざるを得ない事態に追い込まれました。
民間企業の現場取材においても、「商品コードが日付に化けたまま基幹システムにインポートされ、出荷停止トラブルが発生した」「アンケートの比率データが集計不能になった」といった証言が多数存在します。ツールの特性を理解せずに放置することは、重大な業務リスクに直結しているのです。