生理前の異常な眠気の背景には、女性ホルモンの劇的な変動が引き起こす明確な生化学的ルートが存在します。主犯格となるのは、排卵後に卵巣から大量に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)です。
プロゲステロンが体内で分解される過程で生成される「アロプレグナノロン」という神経ステロイドは、脳内の中枢神経系においてGABA(γ-アミノ酪酸)受容体に強力に結合します。GABA受容体は、病院で処方される睡眠導入剤や抗不安薬が標的とする部位そのものです。つまり、黄体期の女性の脳内では、天然の強力な睡眠導入物質が大量に放出され続けている状態に等しいのです。「生理前だるい眠い理由」を生物学的に突き詰めれば、自律神経の乱れという曖昧な言葉ではなく、脳が直接的に麻酔をかけられている状態に近いと言えます。
さらに見逃せないのが、黄体期眠気基礎体温の変動による睡眠構造の破綻です。通常、人間の身体は日中に体温が上がり、夜間に深部体温(身体の中心部の温度)が下がることで深い睡眠へと誘導されます。しかし、黄体期はプロゲステロンの体温上昇作用によって基礎体温が通常時より0.3〜0.5度高い高体温期が続きます。
この持続的な高温状態は、夜間の深部体温の低下を阻害します。結果として「夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)」「夢ばかり見て眠りが浅い」「朝起きても疲労が取れていない」という質の著しい悪化を招きます。日中の激しい睡魔は、ホルモンそのものが誘発する直接的な眠気と、夜間の深睡眠剥奪という二重のプレッシャーによって引き起こされているのです。