全国の地方公立病院に激震を走らせた市立大津市民病院の医師一括退職。当時、外科系診療科の部長級を含む20名を超える専門医が短期間に退職を表明し、救急受け入れや高度手術の継続が危ぶまれる異常事態に陥りました。その背景には、単なる労働条件の不満にとどまらない、構造的なガバナンスの摩擦が存在していました。
報道各社の取材や市議会での特別委員会記録によると、事態の直接の引き金となったのは2020年以降に進められた経営陣によるトップダウン改革でした。地方独立行政法人として収益改善を急ぐあまり、現場の医療スタッフに対する十分な対話や合意形成を欠いたまま、民間コンサルタントを起用した病床再編や人事評価の見直しが強行されたとされています。
当時、現場を去った医師の手記や関係者の証言では、「現場の医療安全に対する危機感が経営陣に全く届かなかった」「専権的な組織運営により、医療倫理と採算性の板挟みになった」という苦悩が生々しく語られています。さらに、医師の派遣元である京都大学をはじめとする主要大学医局との信頼関係が急速に冷却化。医局側の反発を招いたことで後任医師の派遣がストップし、退職の連鎖が止まらなくなるという負のスパイラルが生じました。
組織のトップダウンと現場の専門職集団、そして日本の地域医療を長年支えてきた大学医局システムとの間で起きた深刻な機能不全こそが、このニュースの真相でした。