タイトルであり曲の核となっているフレーズ「Don't Worry, Be Happy」は、ボビー・マクファーリン自身がゼロから考え出したキャッチコピーではありません。その発端は、サンフランシスコのアパートで彼が目にした、ある小さなポスターでした。
そのポスターに印刷されていたのが、インドの沈黙の霊的指導者として知られるメヘル・バーバー(Meher Baba, 1894–1969)の写真と、彼が西洋の弟子たちに向けて残した言葉「Don't worry, be happy. All is well.」でした。1925年から生涯を終えるまで40年以上もの間、一切の肉声を発することなく沈黙を守り続けたメヘル・バーバーが伝えたメッセージの簡潔さと力強さに、マクファーリンは強い感銘を受けたのです。
歌詞の対訳を丁寧に紐解くと、この楽曲が単なる「根拠のないポジティブ思考の押し付け」ではないことが明確に理解できます。
【歌詞の核心部分の和訳】 Here's a little song I wrote / ひとつ短い曲を作ったんだ
You might want to sing it note for note / 君も一節ずつ歌いたくなるかもしれないよ
Don't worry, be happy / 心配しないで、楽しくいこう
In every life we have some trouble / どんな人生にだってトラブルはあるさ
But when you worry you make it double / だけど心配しすぎると、悩みは2倍に膨らんでしまう
Don't worry, be happy / だから思い悩むのはやめて、笑顔でいよう
家賃が払えない、寝るベッドがない、誰かに振られた――歌詞で描かれる状況は、どれも生々しい日常の苦境です。マクファーリンは「問題など存在しない」と嘘をついているのではなく、「トラブル自体は避けられないが、過度に不安を反芻(はんすう)して苦しみを自ら2倍に増幅させる必要はない」という、極めて現実的で実用的なアドバイスを提示しているのです。