「O型の血が好き」「汗っかきが狙われる」といった都市伝説は、半分正しく、半分は不十分だ。最新の研究によって明らかになった真犯人は、皮膚の常在菌が放出する微量な揮発性有機化合物(カルボン酸など)の化学的プロファイルである。人間の肌表面に生息する細菌群が汗成分を分解する際に発する特定の匂い物質が、蚊の高度な触角センサーを強烈に刺激する。息を吐く際に出る二酸化炭素の濃度の高さや、運動後の体温の上昇、さらには飲酒直後における代謝産物の変化も、彼女たち(血を吸うのは産卵を控えた雌のみだ)にとって格好の誘導ビーコンとなる。
また、着ている服の色も無視できない。視覚と嗅覚を巧みに組み合わせる生態が解明されており、黒や紺などの濃い色は光のコントラストを強め、遠くからでも目立つターゲットとして認識される。刺されやすい人と刺されにくい人の決定的な差は、体質そのものよりも、肌のマイクロバイオームと呼気成分の組み合わせが生み出す「化学的なシグナル」の強弱にあったのだ。