引っ越しそばのルーツは江戸時代中期にまで遡る。当時は新しく近所に引っ越してきた者が、両隣や向こう三軒の住人へ「おそばに参りました」「細く長くお付き合いをお願いします」という洒落(しゃれ)や掛詞を込めて蕎麦を配るのが一般的な風習であった。
さらに歴史的な背景を探ると、徳川家康による江戸開府以降の都市開発が大きく影響している。全国から大工や商人が集まる中で長野方面から伝来した信州そばの需要が急速に拡大し、江戸の街中に蕎麦屋が急増した。それまでの高級な祝い品であった餅や小豆粥に代わり、安価で日持ちし、かつ縁起の良い蕎麦を配るスタイルが庶民の間で一気に普及したのだ。日本麺類業団体連合会の歴史資料を見ても、江戸庶民の合理性と粋な心意気が生んだ独自のカルチャーであったことが見て取れる。