紫苑とモクレンを取り巻く周囲の人間関係もまた、悲劇の連鎖に満ちています。
玉蘭と迅八、そして槐と一成の「性別を超えた苦悩」
前世の玉蘭は、容姿端麗で人格者、誰からも信頼されるリーダーでした。粗暴で卑屈に見えた紫苑とは常に反目し合っており、モクレンを巡る恋敵でもありました。その玉蘭が現代では、直情的な男子高校生・小椋迅八に転生します。
一方、玉蘭に想いを寄せながらも打ち明けられなかった古生物学者・槐は、現世では迅八の親友である男子高校生・笠間一成として生まれ変わりました。一成は自分が男性であるにもかかわらず、迅八に対して親友以上の感情を抱いてしまうことに激しい自己嫌悪と混乱を覚えます。前世の記憶が戻るにつれて、一成は「自分がかつて女だったから迅八を好きなのか、それとも一成として彼を愛しているのか」というアイデンティティの迷宮に苦しむことになります。
秋海棠が犯した最大の裏切りと、春彦の背負った贖罪
物語最大のミステリーのひとつが、心優しい医師だった秋海棠(現世:薬師丸春彦)の行動です。
月基地で未知のウイルスが蔓延した際、秋海棠は開発されたばかりのワクチンを自らに投与し、残りのワクチンを誰に打つかの選択を迫られました。秋海棠はモクレンに密かな想いを寄せており、彼女と紫苑が結ばれたことに強い嫉妬と絶望を抱いていました。その結果、彼は紫苑を排除してモクレンを助けたいという衝動に駆られ、紫苑にワクチンを打たず、モクレンに投与しようとします。しかし、モクレンは自分だけが助かることを拒絶して死亡。結果的に秋海棠の裏切りによって、紫苑だけが抗体を持たないまま隔離され、地獄の孤独を生き延びる羽目になったのです。
現世の春彦は、覚醒と同時にこの「秋海棠の犯した大罪」を思い出し、深い罪悪感に苛まれます。輪がどれほど非道な命令を下そうとも、春彦がそれに逆らえず命を削ってESP能力を使い続けたのは、前世で紫苑に地獄を味わわせたことへの贖罪に他なりませんでした。