「井手ちゃんぽんを訪れる客の3割以上が、ちゃんぽんではなくカツ丼を注文しているのではないか」——SNSやグルメサイトで囁かれるこの噂は、決して誇張ではない。暖簾をくぐると、店内には豚骨スープの芳香とともに、醤油とみりんが焦げる甘辛い出汁の匂いが漂っている。
元々、創業当時の「千代食堂」が丼ものや定食を幅広く提供する大衆食堂であったことから、丼タレの製法と技術は創業当初から熟成されてきた。井手ちゃんぽんのカツ丼は、現代の洗練された薄味系カツ丼とは対極に位置する、「力強く濃厚な甘辛仕立て」が最大の持ち味である。
オーダーごとにラードでカラリと揚げられるロースカツは、厚みがありながらも歯切れが良く、濃厚な醤油ダレを吸っても衣のサクサク感が絶妙に残されている。そこに絡むのは、火の通り加減を絶妙に見極めた半熟の溶き卵だ。ガツンと響く出汁のコクと脂身の甘みが白米の一粒一粒に染み渡り、一口運ぶごとに脳内へ直接的な快楽を届ける。
ネット上の口コミでも「人生で一番旨いカツ丼がまさかのちゃんぽん屋だった」「ちゃんぽんを食べに来たはずなのに、隣の客のカツ丼を見た瞬間に注文を変更してしまった」という告白が頻乗している。なお、麺類もカツ丼も両方味わいたいという欲張りな欲求に応えるため、各店では「ミニカツ丼」とのセットメニューも用意されているが、ミニであっても一般的な半丼以上の重量感があるため、慎重な注文が推奨される。