筆者は今年、スイス・ツェルマット郊外のハイキングルートを取材した。以前は静寂が支配していた標高2200メートルの草原には、今や自撮り棒や超望遠レンズを抱えた世界中からの旅行者が溢れている。
「あそこだ! 叫べ!」――スマートフォンをかざした若者が、岩陰に潜むマーモットの巣穴に向かって距離を詰める。追い詰められたマーモットは腹を大きく波打たせ、甲高い声で短く数回、叫び声を上げた。撮影者は大歓声を上げるが、地元の生態系保護員であるルーカス・マイヤー氏は厳しい表情を崩さない。「観光客は喜びますが、あの声を出させた時点で私たちの負けです。あれは彼らが『死の危険』を感じた時に出す最終警告なのですから」。