華やかな1億円プレーヤーの裏側で、スキージャンプという競技が抱える構造的なマネーの実態にも目を向ける必要があります。国際スキー・スノーボード連盟(FIS)の公式賞金規定によると、ワールドカップの個人戦で優勝しても、女子選手の獲得賞金は1戦あたり約4,000〜5,000スイスフラン(日本円で約65万〜80万円程度)。年間20数戦行われる全試合で表彰台に登り続けたとしても、年間の賞金総額はせいぜい800万〜1,200万円前後が限界値です。
一方で、欧州を数カ月間転戦するための渡航費、専属コーチやトレーナー、用具を調整するワックスマンの人件費、ジャンプスーツやスキー板の調整費など、トップコンディションを維持するために必要な遠征経費は年間で3,000万〜5,000万円に跳ね上がります。
つまり、普通の選手であれば世界トップレベルで戦うほど年間数百万円から数千万円の「大赤字」に陥るのが女子ジャンプ界の冷酷な現実です。高梨選手は自らのスポンサー収入を資本として投入し、専属スタッフを自費で雇い入れる「チーム高梨」というプライベートカンパニーを組織することで、世界転戦の過酷なコストを完全に自給自足してきました。
彼女が稼ぐ年収1億円は、贅沢のためではなく「過酷な世界転戦を勝ち抜き、競技環境を自ら買い取るための開発資金」としての性格を強く帯びているのです。