なぜこれほどまでに人を混乱させる名前が誕生してしまったのでしょうか。その背景には、昆虫の発見順序と名付けのルールが引き起こした「進化の皮肉」が存在します。
事の発端は、体に鋭い棘(トゲ)を無数に持つ「トゲハムシ」の発見でした。この昆虫は見た目のインパクトから、和名として「トゲトゲ」という愛称・別名が定着しました。
ところが調査が進むにつれ、トゲトゲと骨格や生態が極めて近い近縁種であるにもかかわらず、「トゲがまったくない種」が発見されたのです。分類学者たちは困惑の末、トゲトゲの仲間であるという系統関係を重視し、それを「トゲナシトゲトゲ」(トゲナシトゲハムシ)と命名しました。この時点で「トゲがないのにトゲトゲ」という言語的な矛盾が生じることになります。
そして事態はこれで終わりませんでした。さらに世界各地の調査が進んだ結果、トゲナシトゲトゲのグループに属しているにもかかわらず、「再び体に突起やトゲを持つようになった種」が発見されてしまったのです。分類の位置づけをそのまま忠実に積み重ねた結果、誕生したのが「トゲアリトゲナシトゲトゲ」(トゲアリトゲナシトゲハムシ)でした。「トゲがある(トゲナシ(トゲトゲ))」という、二重否定を飛び越えた三重の修飾構造が完成した瞬間です。