民話のファンタジーから一歩離れ、リアリズムの視座から「そもそも犬はなぜ熱心に地面を掘るのか」という行動学的メカニズムに迫ってみましょう。現代の獣医学や動物行動学において、犬の掘削行動(ディギング)には複数の明確な理由が解明されています。
第一に挙げられるのが「獲物の探知と本能的狩猟欲求」です。犬の嗅覚受容器は人間の数千倍から数万倍に達し、土中深くに潜むモグラ、ネズミ、甲虫の幼虫などの微小な体臭や微細な振動を鋭敏に察知します。昔話において正直爺さんが鍬を入れた畑の土壌には、実際に地中の小動物が生息していた可能性が高く、犬にとっては獲物の巣穴を掘り当てようとする極めて自然な本能的行動だったと考えられます。
第二に「体温調節と隠匿習性」です。野生時代のイヌ科動物は、夏の酷暑期には地表の熱を避けて冷たい下層土を掘り出し、冬の厳寒期には体熱を保つ窪地を作る習性を持っています。また、余った食糧を土中に埋めて保存し、後から掘り返す習性(キャッシュ行動)も根強く残っています。愛犬家コミュニティやSNS上でも、「庭を掘り返した愛犬が、数ヶ月前に隠した骨や飼い主の靴下を得意げにくわえてきた」という実体験が日常的に共有されています。
そして第三に、最も精神医学的な要素として「信頼する飼い主との共感・探索ドライブ」が挙げられます。正直爺さんは犬を道具として扱わず、日々の農作業を共に歩むパートナーとして接していました。犬が地面に興味を示した際、爺さんは怒鳴りつけるのではなく「どれどれ」と好奇心を共有し、前足の動きに合わせて土を掘り返したのです。一方、意地悪爺さんは犬の首に縄を巻き付け、無理やり地面に頭を押し付けて強制労働を強いました。恐怖とパニックに陥った犬が、その場しのぎのストレス緩和行動(カーミングシグナルや転位行動)として地面を掻いた結果、そこに埋まっていたのは腐敗した有機物や小石に過ぎなかったという解釈は、動物行動学の観点からも恐ろしいほど辻褄が合います。