検索エンジンで「宝塚 黒 蜥蜴」と打ち込むと、「歴代キャスト」「上演歴」といった関連キーワードが次々と表示されます。そのため、「過去に宝塚大劇場で上演された名作なのではないか」と信じ込んでいる舞台ファンも少なくありません。しかし、劇団の公式アーカイブや過去110年を超える全公演記録を徹底調査した結果、宝塚歌劇団の本公演(大劇場・東京宝塚劇場)およびバウホール、東雲・ドラマシティ公演を含め、劇団本体として『黒蜥蜴』を正式上演した事実は一度もありません。
この厳然たる事実にもかかわらず、なぜ「宝塚黒蜥蜴歴代キャスト」という検索が後を絶たないのか。その背景には、大きく分けて2つの要因が存在します。
第一に、退団後の元トップスターをはじめとする宝塚OGが、東宝や梅田芸術劇場、パルコ劇場などの外部商業演劇で『黒蜥蜴』に多数出演してきた歴史がある点です。美輪明宏の当たり役として名高い本作ですが、近年の再演版では元雪組トップスターの朝海ひかるが重要な役どころを演じるなど、宝塚出身女優が作品の中核を担ってきました。外部公演の宣伝ポスターや劇評に「元宝塚トップスター」の肩書が躍ることで、いつしかファンの記憶の中で「宝塚歌劇のレパートリー」として混同されるに至ったのです。
第二に、宝塚ファンの間で長年楽しまれてきた「ドリームキャスト論争」の過熱です。「男役トップスターが明智小五郎を演じ、妖艶な黒蜥蜴(緑川夫人)をトップ娘役、あるいは男役2番手が演じたら歴史的傑作になる」というファンの妄想配役がブログやSNSで拡散され、それがいつの間にか「過去に上演された伝説の舞台」という都市伝説へ変容していきました。