東家寿楽がこれほどまでに惜しまれた理由は、提供される料理の質の高さはもちろんのこと、そこで過ごした「時間と体験」の豊かさにありました。当時の利用者から寄せられた口コミや回顧録には、深い愛着と感謝の念が溢れています。
看板メニューであった「天ざる」は、大ぶりの海老や季節の野菜がからりと揚げられ、ごま油の上品な香りとサクサクとした衣の食感が緑色の蕎麦と絶妙に調和していました。また、釧路東家伝統の「かしわぬき(蕎麦を入れず親鶏の旨味を凝縮させた吸い物風出汁)」や、職人の細やかな手仕事が光る「そば寿司」は、酒の肴としても絶品と評されていました。
長年通い詰めていた円山在住の常連客は、当時の様子について次のように振り返っています。
「祖父の代から三世代で通っていました。春は庭の桜、冬は雪化粧した木々を眺めながらいただく温かいかしわそばが本当に好きでした。仲居さんたちの行き届いた立ち居振る舞いも含めて、円山の誇りでした」(札幌市在住・60代男性の手記より)
ネット上のグルメコミュニティやレビューサイトを検証しても、低評価をつける声は極めて少なく、接客・料理・空間の総合力において札幌トップクラスの評価を獲得していたことが確認できます。