宇和島八ツ鹿踊りの装束は、工芸品としても極めて高い価値を誇ります。踊り手が頭上に戴く鹿頭(ししがしら)には、桐の木を彫り上げて漆や彩色を施した精緻な面が用いられ、その頭頂部には本物の日本鹿の角がしっかりと固定されています。
角の重量だけでも少年たちの細い首には相当な負担となりますが、頭部から胸元へは豪華な金襴緞子の幕が長く垂れ下がります。踊り手はこの幕の内側に顔を完全に隠し、幕に開けられたごくわずかな覗き穴から外の様子をうかがいながら、一糸乱れぬ隊列を維持しなければなりません。視野が極端に狭められた状態で、胸元に抱えた小さな両面太鼓「羯鼓(かっこ)」をバチで正確に打ち鳴らしながら、複雑な陣形を描いてステップを踏む作業は、過酷な訓練の賜物です。
袴の裾を翻し、鹿の耳をピンと立てて周囲を警戒するような細やかな首の振り。本物の鹿角がぶつかり合ってカチリと音を立てる瞬間、観客は祭りの喧騒を忘れ、深い霧が立ち込める山奥の森に迷い込んだかのような錯覚に囚われます。装束が持つ古典的な重厚感と、演じる子供たちの華奢なシルエットのコントラストこそが、八ツ鹿踊りだけが持ち得る唯一無二の様式美といえます。