この事件が今なお語り継がれる最大の要因の一つは、当事者である松井秀喜自身の振る舞いにある。打席で一度も苛立ちを見せず、静かに一塁へと歩み続けた18歳の少年の佇まいは、観客の感情とは対照的にどこまでも冷徹で、そして神話的ですらあった。
後に日米のプロ野球で偉大な足跡を残した松井は、当時の敬遠について「嫌だと思ったことは一度もない。相手も真剣に勝ちに来ていたのだから」と、終始一貫して相手チームへの敬意を失わなかった。この超然とした態度が、彼の人間性を際立たせ、後に世界で活躍する精神的基盤となったことは疑いようがない。
また、相手投手であった河野和洋氏も、後に大学や社会人、さらには指導者としてのキャリアを歩む中で、あの夏のプレッシャーと向き合い続けてきた。「あの敬遠があったからこそ、自分は野球と深く向き合えた」という当事者たちの回顧は、事件に新たな人間ドラマの奥行きを与えている。