単なる筋肉のコリや顎の不調として片付けてはならない重大な疾患があります。それが「側頭動脈炎(巨細胞性動脈炎)」です。
側頭動脈炎は、頭部の血管、特にこめかみを走る浅側頭動脈に慢性的な肉芽腫性炎症が起こる血管炎であり、厚生労働省の指定難病に認定されています。発症者の大半は50歳以上であり、70代から80代の高齢層でピークを迎えます。
この疾患の典型的な兆候が「顎跛行(がくはこう)」と呼ばれる現象です。食事を始めてしばらく物を噛み続けていると、側頭筋への動脈血流が不足し、こめかみや顎に強い痛みや疲労感が生じて噛むのを中断せざるを得なくなります。そして咀嚼をやめて少し休むと痛みが引くという、間欠性跛行に似たパターンを辿ります。
一般的な筋肉疲労や顎関節症と識別するための、「こめかみの痛みにおける危険なサイン」は次の通りです。
- 浅側頭動脈の異常:こめかみの血管が太くコブのように浮き出ている、触ると硬く索状(ロープ状)に触れる、脈拍が触れにくい。
- 頭皮の接触痛:髪をブラシで梳かすだけでこめかみや頭皮がピリピリと痛む。
- 全身症状の併発:原因不明の微熱、全身倦怠感、急激な体重減少、肩や腰の痛みを伴うリウマチ性多発筋痛症の併発。
- 視覚の異常:視野がかすむ、物が二重に見える、一時的に目が見えなくなる(一過性黒内障)。
側頭動脈炎の最も恐るべき合併症は眼動脈への炎症波及による不可逆的な失明です。発症から早期に高用量ステロイド治療を開始しなければ、数日から数週間で視力障害が固定化する危険性があります。50歳以上で「噛むとこめかみが痛い」状態に加え、血管の腫れや視覚の違和感がある場合は、歯科ではなく直ちに脳神経内科または膠原病内科を受診しなければなりません。