彼の代名詞とも言える『にんげんだもの』。このあまりにも有名なフレーズは、単なる安易な全肯定の言葉ではない。その背景には、戦争の傷痕や自身の貧困、そして人間が抱える業(ごう)に対する泥臭い観察があった。妥協を許さない創作現場では、何百枚もの半紙が容赦なく破り捨てられていたという。
「そのままでいい」と語りかける言葉の裏には、自らを極限まで追い詰め、人間の弱さを直視し続けた作家としての壮絶な葛藤が隠されている。決して綺麗事ではない。人間の泥臭さや情けなさを肯定する眼差しこそが、この名言に時空を超える強い生命力を与えているのだ。