沈黙を貫く佐村河内氏の現在を紐解くうえで、外すことのできない重要な足跡がある。映画監督の森達也氏が手掛けたドキュメンタリー映画『FAKE』だ。2016年に公開されたこの作品は、騒動後の佐村河内氏の自宅にカメラを持ち込み、メディア報道の裏側にあった彼の素顔と生活風景を克明に捉えた。
スクリーンに映し出されたのは、メディアが仕立て上げた「希代の詐欺師」というステレオタイプとは大きく異なる姿だった。妻と二人で小さな部屋に身を寄せ、愛猫と戯れ、来訪する海外メディアのインタビューに苛立ちを見せる等身大の男。映画の終盤、彼がシンセサイザーのキーボードに向かい、自らの手で新たなフレーズを打ち込んでいくシーンは観客に強い衝撃を与えた。「彼に音楽的才能は皆無だったのか」「彼は何者だったのか」という単純な二元論に対し、ドキュメンタリーという手法を用いて鋭い問いを突きつけた本作品は、現在も映像表現の傑作として語り継がれている。