世間の常識として定着している言説の中には、重大な科学的誤解が含まれていることが少なくありません。その代表例が「耐熱ガラスなら絶対に割れない」「強化ガラスなら熱にも強い」という誤認です。
まず押さえるべきは、「強化ガラス」と「耐熱ガラス」は完全に別物であるという事実です。強化ガラスは物理的な衝撃(落下や衝突)に対する強度を高めたガラスであり、熱に対する耐性(熱膨張の抑制)は付与されていません。100均の食器売り場に並ぶ透明なグラスや器の多くはソーダライムガラス(普通のガラス)または全面物理強化ガラスであり、これらをオーブン加熱に使用すると粉々に爆砕します。製菓に使用できるのは、熱膨張係数を低く抑えた「ホウケイ酸ガラス」を用いた耐熱ガラス製品のみです。
もう一つの盲点は、カラメル作りにおける「熱の局在化」です。砂糖と少量の水を煮詰めて作るカラメルソースは、色づく段階で160℃〜180℃という超高温に達します。この液体を常温のカップに直接注ぎ込む行為は、熱湯(100℃)を注ぐよりもはるかに過酷な負荷を底面の一点に与えることになります。たとえ耐熱ガラスであっても、注いだ瞬間の極端な温度勾配によりクラックが入る危険性を孕んでいます。カラメルをカップに敷く際は、粗熱を少し取ってから注ぐか、あらかじめ耐熱陶器を使う、あるいはカラメルタブレットを活用するといったリスクヘッジが不可欠です。