関西圏以外の地域で特に混同されやすいのが、「衣笠丼」と「きつね丼」の区別です。京都を中心とする近畿地方の食文化史や飲食業界の聞き取り調査を紐解くと、そこには明確な定義と美しい文化的背景が存在します。
まず衣笠丼という風流な名称は、京都市北区に実在する名峰「衣笠山(きぬがさやま)」に由来しています。平安時代、第59代宇多天皇が真夏に「雪景色が見たい」と所望された際、山肌一面に白い絹を敷き詰めて雪山に見立てたという故事(きぬかけの山)が起源です。丼の上に盛られたふっくらとした油揚げと九条ネギを山肌に見立て、その上からふんわりと覆いかぶせる半熟の卵を「白絹」に見立てたことから、この雅な名前が定着しました。
一方、きつね丼との本質的な相違点は「卵でとじるかどうか」にあります。伝統的な京都の麺類食堂の様式では、油揚げとネギを出汁で甘辛く炊き、そのままご飯に乗せたものが「きつね丼」であり、卵でとじたものが「衣笠丼」と区別されます。ただし、大阪などの周辺地域では、甘辛く煮た油揚げの卵とじを「きつねとじ丼」と呼ぶ店舗も存在するため、地域ごとのローカルルールを理解しておくと外食時にも迷いません。