自閉スペクトラム症の当事者が申請対象となるのは、3種類ある手帳のうち「精神障害者保健福祉手帳」です。取得の可否を検討するうえで、最も知っておくべきはASDの障害者手帳におけるメリットとデメリットのリアルな天秤です。ネット上には極端な推進論や不安を煽る言説が散見されますが、法制度と現場の実情を冷静に見極める必要があります。
最大の恩恵は、公的な経済支援と就労選択肢の拡大にあります。所得税や住民税における障害者控除の適用により、年間の手取り額が数万〜十数万円単位で改善するほか、自治体ごとの公共交通機関の運賃割引、公共施設の利用料減免などが受けられます。さらに就労面では、合理的配慮を法的に求めやすい障害者雇用枠での就職活動が可能となり、二次障害(うつ病や適応障害)による離職を予防する強力な盾となります。
一方で、見過ごせない「思わぬ落とし穴」も存在します。手帳を取得した事実そのものが戸籍や公的身分証明書に記載されることはありませんが、民間の生命保険や医療保険、住宅ローンの団信(団体信用生命保険)の新規契約時において、告知義務に伴う審査落ちや条件付き承諾(保険料割増・不担保期間の設定)が発生しやすくなります。すでに加入している保険が解約されることはないものの、将来的な金融商品の選択肢が狭まる点は、多くの当事者が後から直面する典型的な盲点です。