タイ民族衣装ブームの過熱に伴い、観光客が陥りがちな「2つの重大な盲点」について、客観的な事実をもとに注意を促さねばなりません。
誤解1:片肩出しの「チャクリー」でどこでも自由に入場できる?
多くの日本人観光客が最も惹かれるのは、右肩または左肩を大胆に露出した「チャクリー様式」です。ワット・アルンの敷地内庭園ではこの姿での撮影が広く容認されているため、「タイの寺院ならどこでも民族衣装ならOK」と誤認している人が少なくありません。
しかし、これは明確な誤解です。タイ国政府観光庁(TAT)および文化省の指針では、仏教寺院の本堂(ウボーソット)や王室関連施設(エメラルド寺院・王宮など)においては、「肩や膝の露出は厳禁」とされています。神聖な本堂に入る際は、サバイの上から長袖のストールを羽織るか、露出のない「ボロムピマン」や「チトラダー」を選ぶのが本来の礼儀です。
また、仏像や仏塔に腰掛けたり、キスを迫るような過度なポーズで撮影する行為は、現地警察や寺院警備員による退去命令や過料の対象となる事例が報告されています。「衣装を着ているから何をしても許される」わけではなく、あくまで信仰の場をお借りしているという敬意が不可欠です。
誤解2:格安レンタル衣装は「すべて本物の高級タイシルク」?
「タイシルクの民族衣装を着た」とSNSに投稿する旅行者が後を絶ちませんが、現地関係者への取材によると、200〜300バーツで貸し出されている衣装の95%以上はポリエステル製の化繊混紡テキスタイルです。
「ジム・トンプソン」などに代表される本物の手織りタイシルク(桑の葉で育てた黄色の繭から手作業で紡ぐ絹糸)は、独特の節(ネップ)と玉虫色の光沢を持ち、1着仕立てるだけで数万〜十数万バーツ(数十万円)に達します。化繊の衣装が悪いわけではありませんが、吸湿性が極めて低いため熱帯の気候では熱がこもりやすいというデメリットを理解しておく必要があります。