日本国内の市街地に生息するコウモリのほぼ100%は、体長約4〜6cmの「アブラコウモリ」です。彼らは夜行性で視力が発達していない代わりに、喉から高周波の超音波を発し、周囲の障害物や獲物(小型昆虫)に当たって跳ね返ってきた音を耳で感知する「エコーロケーション(反響定位)」を行って空間を把握しています。
アブラコウモリが日常的に使用する周波数はおよそ30kHz〜50kHzとされています。人間が聞き取れる可聴域の上限(約20kHz)を大きく超えるこの高周波帯において、強力かつ不規則な周波数の音を浴びせられると、コウモリは反響定位の感覚を狂わされ、パニックに陥ってその場から一時的に飛び去ります。これが「コウモリ撃退超音波」と呼ばれる仕組みの根本原理です。
この習性を利用し、近年はスマートフォンで手軽に鳴らせるコウモリ超音波アプリ効果がSNS等で話題になる機会が増えました。しかし、日本音響学会などの知見や現場の検証データを紐解くと、スマートフォンの内蔵スピーカーは本来人間の声や音楽(可聴域内)をクリアに再生する設計となっており、20kHzを超える超音波を十分な音圧(デシベル)で出力するには構造上の限界があります。「アプリを起動して近づけたら一瞬飛び立ったが、すぐに戻ってきた」という事例が多いのは、音圧不足によってコウモリの感覚器官を完全に麻痺させるまでに至らないためです。