鈴原サクラの造形を決定づけた最大の要素が、兄トウジから受け継いだ親しみやすい関西弁と、沢城みゆきによる繊細かつ凄絶な声のトーンです。彼女が放った数々のセリフは、エヴァ特有の難解な専門用語が飛び交う戦場において、生身の人間の感情を剥き出しにするリアリティを放っていました。
『Q』のクライマックス、アヤナミレイ(仮称)の手引きでネルフ本部へ向かおうとするシンジに対し、インターホン越しに叫んだ悲痛な懇願は、ファンの脳裏に今も焼き付いています。
「碇少尉! エヴァにだけは、乗らんといてくださいよ!」
このセリフは単なる命令や作戦上の制止ではありません。エヴァに乗ることがいかに過酷で、世界とシンジ自身をどれほど破壊したかを知る者としての、個人的で切実な祈りでした。そして完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では、その祈りが極限状態の叫びへと昇華します。ヴンダー甲板で初号機に向かおうとするシンジを前に、涙と鼻水を流しながら吐露した魂の叫びです。
「エヴァに乗らんといてください! 怪我したら痛いんです! 碇さんも、もう痛い思いせんでええんです!」
世界の存亡や大義名分ではなく、「怪我をしたら痛い」という根源的で原始的な身体感覚を突きつけるサクラの言葉。沢城みゆきは、声の掠れや息遣いの乱れに至るまで極限の芝居を吹き込み、観客の涙腺を激しく揺さぶりました。