窓口担当者が一目見て「これは突っ返せない」と覚悟を決める書面には、共通した冷徹な骨格がある。被害者の悲痛な叫びではなく、裁判官や検察官がそのまま起訴状に転写できるレベルの構成要件該当性が整っているかどうか。ここが勝負の分かれ目だ。
記載において絶対に外してはならない必須要件は、以下の5点に集約される。
第一に、告訴人と被告訴人(犯人)の完全な特定。氏名不詳であっても、SNSのアカウントIDや振込先口座番号、IPアドレスなど、追跡の起点となる客観的データを網羅する。第二に、告訴の趣旨。単に「捜査してください」ではなく、「被告訴人の所為は刑法第246条(詐欺罪)に該当するため、厳重な処罰を求め、ここに告訴いたします」と罪名まで明示する。第三に、犯罪事実の日時・場所・態様の特定だ。「いつ、どこで、誰が、誰に対して、どのような欺罔行為を行い、財物を交付させたか」を、5W1Hで削ぎ落とした文体で刻み込む。
実際に法曹関係者が作成する文例の核心部は、極めて簡潔だ。
「被告訴人は、令和○年○月○日頃、告訴人に対し、何ら事業の実態がないにもかかわらず『毎月3%の配当を確実に支払う』旨の虚偽の事実を申し向け、その旨誤信した告訴人をして、同月○日、指定する○○銀行の口座に現金○○万円を振り込ませ、もって人を欺いて財物を交付させたものである。」
感情的な形容詞は一切排除されている。この乾いた文体こそが、法律実務・刑事事件手続きにおける最大の破壊力を持つ。