ネット上の言説において散見される最大の盲点は、「自然を守るために木を伐るのをやめ、植樹だけを推進すべきだ」という非現実的な自然礼賛論です。これは森林生態学と日本の地理的現実を無視した浅薄な理解に過ぎません。
戦後、拡大造林政策によって植えられた日本の人工林(スギ・ヒノキ等)は約1,000万ヘクタールに達し、その半数以上が一般的な利用期である大径木(50年生以上)を迎えています。木々は樹齢を重ねると光合成による年間二酸化炭素(CO2)吸収量がピークを越えて急減します。高齢級の人工林を放置し続けると、過密化による下草の衰退、根系の脆弱化による土砂崩れ被害、さらには春先の猛烈な花粉飛散といった社会崩壊リスクを高める結果となります。
SDGsの看板を掲げて行われる盲目的な植樹イベントが批判を浴びる事例も後を絶ちません。木をただ植えるだけの行為は極めて容易ですが、その後の10年間にわたる下刈り、除伐、間伐といった過酷な管理負担を無視した植栽は、草木に埋もれて立ち枯れる「緑の砂漠」を生み出すだけです。
現代の森林再生において不可欠なのは、高齢化した木を計画的に「主伐」して木造高層ビルや内装材として都市に炭素を固定(木材ストック化)し、その跡地に花粉の少ない優良苗木(特定苗木)を植えて再育林する「循環型林業」のサイクルです。「伐ること」と「植えること」を断絶した善悪の敵対者として捉える思考停止こそが、自然環境を真に破壊する原因となっています。