市街地や住宅街の一角で突如として現れ、人々を驚かせる「毛のない奇妙な四足歩行生物」。その大半は、山林から餌を求めて人里へ下りてきたホンドタヌキです。ふっくらとした愛らしい冬毛のイメージとはかけ離れ、まるでネズミと象を掛け合わせたような異様な外見に変貌してしまう理由は、タヌキ疥癬症(かいせんしょう)と呼ばれる重篤な皮膚病に罹患しているためです。
タヌキの毛が抜ける原因物質は、体長わずか0.2〜0.4ミリメートルほどの目に見えない微小な外部寄生虫「センコウヒゼンダニ」です。このダニがタヌキの皮膚の表皮内にトンネルを掘り進めて寄生し、産卵と排泄を繰り返します。ダニの分泌物や虫体そのものに対してタヌキの免疫システムが猛烈なアレルギー反応を起こし、耐え難い激痛と痒みが生じます。
発症したタヌキは自らの爪で激しく掻きむしり、皮膚を地面や樹木にこすりつけるため、まず尾や下腹部から毛が抜け始めます。やがて病勢が進行すると全身の被毛が完全に抜け落ち、皮膚が厚く硬化して深いひび割れができる「角化型疥癬」へと移行します。一見すると新種の生物や奇病のように見えますが、ダニによる過酷な生体破壊がもたらした痛ましい姿なのです。