彼岸花は全草に毒を含みますが、中でも地下にある鱗茎(球根)に最も高い濃度の毒が蓄積されています。主要な有毒成分は、イソキノリンアルカロイドに分類されるリコリン(Lycorine)です。彼岸花にはリコリンのほかにも、ガランタミン、セキサニン、タゼチンなど約20種類以上もの有毒アルカロイドが含まれており、これらが複合的に生体へ作用します。
植物生理学の見地から見ると、彼岸花がこれほど強烈な毒を球根に蓄える理由は極めて合理的です。夏季に葉を落として球根の状態で休眠する彼岸花にとって、土中の球根は外敵から身を守る最大の急所となります。土壌中の害虫、モグラ、ネズミ、さらには細菌類による食害を退けるための自己防衛システムとして、化学兵器とも呼べるアルカロイドを進化の過程で獲得したのです。
リコリンは強い催吐作用を持ち、体内に入ると延髄の嘔吐中枢を刺激します。医療用の催吐薬として研究された過去もありますが、毒性と治療域の安全マージンが極めて狭いため、現在では直接医薬品として経口投与されることはありません。