なぜ男同士で唇に?ブレジネフのキス写真とベルリン壁画に隠された真相

なぜ男同士で唇に?ブレジネフのキス写真とベルリン壁画に隠された真相

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レギス・ボッシュの写真が歴史的記録から「世界的ポップアイコン」へと昇華した舞台こそ、1989年のベルリンの壁崩壊に伴い誕生したイーストサイドギャラリーでした。

1990年、東西ドイツ統一の熱狂の中で、ロシア出身のアーティストであるドミトリー・ヴルーベリ(Dmitri Vrubel)は、残されたベルリンの壁のコンクリート板にあの1979年の写真を巨大な風刺画として模写しました。壁画の下部には、ロシア語とドイツ語で次のような強烈なタイトルが刻まれました。

『神よ、この死に至る愛の中で生き残るのを助けてください』
(Mein Gott, hilf mir, diese tödliche Liebe zu überleben / Господи! Помоги мне выжить среди этой смертной любви)

ヴルーベリが名付けたこのタイトルには、二重三重の痛烈なアイロニーが込められています。第一に、国家間の「愛(連帯)」を誓い合いながら、東ドイツ市民を恐怖と分断に閉じ込めた体制への告発。第二に、ソ連という絶対的な盟主の「重すぎる愛(軍事支配)」によって、息の根を止められかけていた衛星諸国の恐怖です。ソ連は過去、1956年のハンガリー動乱や1968年のチェコスロバキア「プラハの春」において、「同志を反革命から救う」という名目で戦車を送り込み、武力弾圧を行いました。すなわち、共産圏におけるソ連のキスは、一歩間違えれば国家の死を意味する「死の抱擁」でもあったのです。

この壁画は2009年、ベルリンの壁崩壊20周年事業の際に修復と再描画が行われました。作者のヴルーベリは2022年に惜しまれつつこの世を去りましたが、現在も世界中から観光客が訪れるイーストサイドギャラリー屈指の撮影スポットとして、冷戦の記憶を雄弁に物語り続けています。

清水 千尋
著者

清水 千尋

マーケティングと消費者心理のトレンドを分析し、現代のヒット商品の背景を読み解きます。