そもそも、普段は無色透明に近い気道分泌液が、なぜ鮮やかな黄色や緑色に変色するのでしょうか。その背景には、血液中の白血球の一種である好中球(こうちゅうきゅう)の存在があります。気道内に病原体が侵入すると、骨髄から大量の好中球が感染現場へと動員され、貪食(どんしょく)作用によって病原体を包み込んで破壊します。
好中球の内部には、ミエロペルオキシダーゼと呼ばれる緑色の酵素が豊富に含まれています。病原体との激しい交戦の末に寿命を迎えた好中球が自壊すると、この酵素や細胞の破片が気道粘液の中へ放出されます。好中球の濃度が低いうちは薄い黄色に見えますが、炎症が激しく好中球が極めて高密度に集積すると、酵素の持つ緑色の色素が強く反映され、粘り気の強い緑色の痰へと変化します。
臨床の現場で注意すべきは、「緑色の痰が出た=強力な細菌感染」と短絡的に断定できない点です。インフルエンザやアデノウイルスなどの重いウイルス感染症であっても、局所に激しい炎症が生じて好中球が集中すれば、痰は容易に黄色や緑色へ変化します。色の濃淡は感染源の種類そのものというより、「局所でどれほど激しい炎症と免疫応答が起きているか」を示す指標なのです。