東日本大震災や能登半島地震などの大規模災害が発生した後、ネット掲示板やSNSでは「そういえば数日前に不気味な雲を見た」「あの画像は予兆だったのではないか」という書き込みが爆発的に増加します。生存者の手記や当時のテレビ番組インタビューでも、地震前に見た異様な空の様子が生々しく語られる場面があります。
なぜ、被災地や周辺地域で「地震雲を見た」という強い記憶が形成されるのでしょうか。認知心理学では、この現象を「確証バイアス」と「後知恵バイアス」の組み合わせで説明します。
人は日常の中で毎日空を見上げていますが、普段は何気ない雲の形を記憶に留めません。しかし、ひとたび大地震という強烈な精神的トラウマを経験すると、脳は無意識に「前兆となる異変はなかったか」と過去数日〜数週間の記憶を徹底的に探索します。その過程で、たまたま記憶に残っていた風変わりな雲の映像が「大災害の予兆」として強烈に結びつけられ、後付けで確信へと変換されてしまうのです。
また、SNSのアルゴリズムはユーザーの不安や恐怖、驚きといった感情を強く刺激する投稿を優先的に拡散します。「不吉な雲の写真」はタップ率やリポスト率が非常に高いため、真偽不明のままインプレッション目的で再利用され続ける情報生態系ができあがっています。