歌詞検索サイトの歌ネットやうたてん等の公式アーカイブ、さらには音頭取りたちの口承資料を紐解くと、時代を超えて受け継がれる「黄金の定番フレーズ」が浮き彫りになります。まずはこれらを知ることで、櫓から流れる言葉の意味が立体的に立ち上がってきます。
代表的な歌い出しとして全国的にも知られているのが、祭り太鼓と観客の熱気を一気に束ねる次のフレーズです。
「エー音頭 ききもの踊りは見もの 祭り太鼓の音のよさ…」
この一節は、大阪府民謡としての河内音頭の看板とも言える詞章であり、自らの芸を誇りつつ、踊り手を讃える祝祭空間の開幕を宣言しています。そして、観客が一体となって呼応する河内音頭掛け声と囃子言葉の意味も見逃せません。
櫓からの呼びかけに対し、踊り場からは「エンヤーコラセー、ドッコイセ」という力強い合いの手が轟きます。「エンヤ」は古語の「ええじゃないか」「祝おうではないか」に通じる呪術的な肯定の言葉であり、「ドッコイセ」は重いものを持ち上げるときや力を振り絞る際の掛け声「どっこい」に由来します。うだるような河内の夜気を吹き飛ばし、踊り手自身の生命力を鼓舞するこの掛け声は、単なるバックコーラスではなく、場を沸騰させるための必要不可欠なエネルギー装置なのです。
また、河内音頭口説き定番フレーズとして最も多用される「枕」の常套句がこちらです。
「エ~ さては一座の皆様へ ちょいと出ました私は 悪声愚音(あくせいくおん)を顧みず…」
「甚だ未熟な喉ではございますが、皆様の余興の邪魔にならぬよう精一杯務めます」という、芸人特有の極めて謙虚な仁義切りから始まり、徐々にテンポを上げて壮大な物語へと誘う導入部は、日本人の美意識に深く根ざしたカタルシスの序章と言えます。