家庭で赤ワイン煮込みを作る際、最も多い不満の声が「ワインの酸っぱさや渋みだけが際立ち、コクが足りない」という現象です。この原因は、ワインのアルコールと揮発性の有機酸を飛ばしきれていない点にあります。ワインをそのまま具材の鍋に注ぎ、蓋をして煮込んでしまうと、蒸発した酸が逃げ場を失って結露し、再び鍋の中へと還流してしまいます。
酸味を完全にコントロールし、豊かなブドウの旨味だけを抽出するプロの技法がワインの事前リデュクション(濃縮還元)です。肉を煮込む鍋とは別の鍋(またはフライパン)にワインを注ぎ、中火で加熱しながらアルコールとツンとした揮発酸を大気中に逃がします。沸騰を維持しながら、元の液量が「3分の1」から「4分の1」程度になるまでしっかりと煮詰めることが肝要です。これにより、角のとれた芳醇な果実味と甘み、ソースに照りを与えるペクチン質だけが凝縮されたベース液が完成します。
高価なヴィンテージワインを使う必要は全くありません。むしろタンニン(渋み)が強すぎる高級ワインは、煮詰めることで渋みが強調され、肉をパサつかせる要因になり得ます。スーパーで1本500〜800円前後で手に入るチリ産やスペイン産のカベルネ・ソーヴィニヨン、あるいはメルロー種主体のミディアムボディが最も適しています。渋みが穏やかで、太陽を浴びた果実味が前面に出ているワインを選ぶことが成功への近道です。