それでもなお、国内外から毎年数千件ものエントリーが集まり続けるのはなぜでしょうか。批判を浴びながらも大企業から気鋭のスタートアップ、地方の中小企業までがこぞって応募する背景には、単なる店頭売上を超えたグッドデザイン賞受賞のメリットと、日本特有の組織心理が存在します。
経済学やマーケティングにおける「シグナリング理論」の観点から見ると、自社のプロダクトが公共機関に連なる第三者機関から公式に評価されたという事実は、特にBtoB(企業間取引)や自治体連携、資金調達の局面において絶大な信用補完力を発揮します。融資審査や公共入札、大手ディストリビューターへの棚取り交渉において、「グッドデザイン賞受賞」という肩書は、営業担当者が何時間も説明する以上の説得材料となります。
さらに注目すべきは、企業の内側に作用する「インナーブランディング」の効果です。日本の製造業やIT企業では長年、デザイナーや商品開発チームの立場が営業部門や製造部門に比べて低く見積もられがちでした。しかし、外部の権威ある審査委員会から受賞のお墨付きを得ることで、社内政治におけるデザイン部門のプレゼンスが一気に向上し、担当者のモチベーションを飛躍的に高める「社内免罪符」として機能します。
自著やインタビューでデザイン組織の変革を語るクリエイティブディレクターたちの証言にも、「保守的な役員会を納得させ、これまでの古い製品ラインナップから脱却するための突破口として賞を活用した」という告白が数多く見られます。日本社会に深く根付く「権威によるオーソライズ(お墨付き)」を巧みに利用し、組織を前進させるためのレバレッジとして賞が機能している側面は見逃せません。