牡蠣を取り巻く情報の中で、最も根深く危険な誤解が「生食用は鮮度が高く、加熱用は鮮度が落ちた古い牡蠣である」という言説です。スーパーの鮮魚コーナーなどでこの基準を信じ込んでいる消費者が依然として後を絶ちません。
食品衛生法に基づく実際の基準は、鮮度ではなく「採取された海域の環境」と「加工段階での浄化処理」によって厳密に分けられています。 生食用として認可されるのは、生活排水などの影響を受けない指定清浄海域で獲れたもの、あるいは紫外線殺菌海水やオゾン処理水などを循環させた水槽で2〜3日間絶食させ、体内の雑菌や毒素を排出させた個体のみです。
一方、加熱用の牡蠣は河口に近くプランクトンが極めて豊富な栄養満点の海域で育ちます。旨味や身の肥え方は加熱用の方が勝っている場合すらありますが、大腸菌群やウイルスを取り込んでいるリスクが高いため、加熱調理を絶対条件として出荷されています。したがって、「新鮮だから」といって加熱用の牡蠣を生で食す行為は、食中毒の引き金を自ら引く極めて危険な無謀行為です。
また、加熱すればウイルスが瞬時に死滅するという過信も危険です。厚生労働省が定めるノロウイルスの不活化条件は、「食品の中心温度が85℃〜90℃の状態で90秒間以上の加熱」です。焼き牡蠣や鍋料理の際、殻の表面が熱くなってフタが開いた程度では、中心部は60℃前後にしか達していないことが多々あります。「半生」のプルプルした食感を求めて不十分な加熱のまま飲み込むことは、生食以上のリスクを背負うことになりかねません。