「こんにちは」は決して万能の魔法の言葉ではない。国立国語研究所をはじめとする言語研究機関の調査でも示されている通り、この言葉が使われるのは主に日中の限られた時間帯に限られる。早朝に近所の人へ「こんにちは」と声をかければ、どこか余所余所しい違和感が漂い、夜間に使えば時間感覚を疑われかねない。
さらに興味深いのは、相手との関係性による使い分けだ。家族や気心の知れた友人同士で「こんにちは」と挨拶することは、日常の文脈ではまずあり得ない。「やあ」「どうも」「おっ」といった崩した表現や、単に会釈だけで済ませるケースが圧倒的だからだ。一方、フォーマルな場面や店舗での接客、あるいは顔見知り程度の近隣住民に対しては、極めて適切な距離感を保つ言葉として機能する。この絶妙な「近すぎず遠すぎず」のニュアンスこそが、挨拶表現における最初の分岐点となる。