ボーイズ・II・メンの『クーリーハイハーモニー』が今なお決定的な評価を受け続ける最大の要因は、1990年代初頭のストリートカルチャーと、アメリカ黒人音楽の伝統的ア・カペラ技法が奇跡的なバランスで結実した点にあります。グループの結成母体となったのは、音楽エリートが集うフィラデルフィアの公立芸術高校(CAPA)でした。彼らはトイレや階段の踊り場など、反響の良い場所を見つけてはクラシックなドゥーワップを何時間も歌い込み、極めて精緻なピッチ感とハーモニーのブレンド技術を体得していったのです。
当時のアメリカ音楽シーンは、テディ・ライリーが生み出した跳ねるような16ビート「ニュージャックスウィング」が席巻していました。そんな中、人気グループNew EditionおよびBell Biv DeVoeのマイケル・ビヴィンスに見出された彼らは、単なるコーラスグループにとどまらず、ヒップホップ世代のストリート感覚を全身にまとった「ヒップホップ・ドゥーワップ」という新ジャンルを提示しました。モータウン・レコードの歴史においても、スティーヴィー・ワンダーやテンプテーションズが築いた黄金期を現代へアップデートする救世主となったのです。
メンバー4人(ネイサン・モリス、ワンヤ・モリス、ショーン・ストックマン、マイケル・マッカリー)それぞれの声質が独立した魅力を持ちながら、一斉に重なった瞬間に圧倒的な音圧と倍音を生み出すアンサンブル。この唯一無二の歌唱表現こそが、打ち込みサウンドが主流となった現代のストリーミング環境においても、リスナーの感情を激しく揺さぶる根源的な力となっています。