連載初期の成蟜は、平民の血を引く兄・嬴政を見下し、身分制度の頂点に君臨することに異常な執着を見せる「典型的な悪役」でした。下僕出身の信や山の民を虫けらのように扱い、配下の裏切りに対しても一切の慈悲を与えないその残虐性は、読者から激しい嫌悪感を抱かれる要因となっていました。
しかし、王都奪還編で嬴政に敗北し、権力の座から失脚したことが彼の内面を大きく揺さぶります。幽閉生活のなかで、成蟜は自身の誇りであった「王族の血」が持つ真の責任と向き合うことになりました。単なる特権階級としての傲慢さから、国と民を背負う義務感、すなわちノブレス・オブリージュ(高貴なる者の負うべき責任)への精神的深化が始まったのです。
転機となったのは、相国・呂不韋の専横が極まり、嬴政の王権が脅かされた国家存亡の危機でした。嬴政から直接協力を要請された成蟜は、かつての私怨を乗り越えて「大王派」の一角として政界に復帰。宮廷内での権力闘争において、成蟜一派を束ねて呂不韋に対峙する姿は、かつての矮小な器を完全に脱皮した威厳に満ちていました。