クライマックスとなる大瀬崎灯台のシーン。追い詰められた清水祐一(妻夫木聡)は、駆けつけた警察官たちの目前で、突如として馬込光代(深津絵里)の首に両手をかけ、締め上げます。一見すると逆上した殺人犯の狂行に見えるこの行動には、極限状態における祐一の切痛な意図が隠されていました。
映画本編の描写やキャストインタビュー、劇中の心理導線を丹念に紐解くと、祐一の行動には3つの明確な理由が存在していたことが分かります。
1. 光代を「共犯者」から「無実の被害者」にするための嘘
光代は祐一の逃亡を助け、自ら進んで彼と共に最果ての灯台まで逃げ延びました。このまま警察に捕まれば、光代は「犯人蔵匿罪」や「逃亡幇助」に問われ、前科がついて社会的な立場を完全に失ってしまいます。祐一は彼女に首輪のようなアザを残すことで、「自分は凶悪な殺人犯に脅迫され、無理やり連れ回されていた被害者である」という動かぬ証拠を警察の目の前で偽装したのです。
2. 光代の未来を自分から完全に切り離すための「悪人」の仮面
もし祐一が光代を抱きしめ、愛の言葉を交わしながら逮捕されたらどうなるでしょうか。光代は一生、殺人犯への未練と罪悪感を背負い、過去に囚われて生きていくことになります。祐一は自ら「冷酷な悪人」を演じきることで、光代に自分を憎ませ、彼女が新しい人生へと歩み出せるよう心理的な決別を促しました。
3. 弱く不器用な男が選んだ、生涯で最初で最後の「自己犠牲の愛」
祖母に育てられ、誰からも真剣に愛されず、金や労働を搾取され続けてきた祐一。そんな彼が初めて「この人のために生きたい」と思えた相手が光代でした。首を絞める手の震えと、警察に取り押さえられた瞬間に見せたかすかな表情は、言葉を持たない不器用な男が命懸けで選んだ、極限の愛の形そのものでした。