農業用語として親しまれる一方で、医学領域における「播種」は全く異なる重大な意味を持ちます。医学における播種とは、病原体や腫瘍細胞が「まるで種をまき散らしたように広範に散布・定着する病態」を指します。
中でも代表的な病態が、がんの転移形式の1つである「がんの播種性転移(腹膜播種・胸膜播種・髄膜播種など)」です。通常のがん転移は血管(血行性転移)やリンパ管(リンパ行性転移)を通って遠隔臓器に運ばれますが、播種性転移は臓器の表面を覆う膜をがん細胞が突き破り、体腔内(腹腔や胸腔)に直接こぼれ落ちて散らばる現象を指します。
特に胃がん、大腸がん、卵巣がん、膵臓がんなどで見られる「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」は、腹膜全体に無数の微小ながん細胞の塊(結節)が散布される状態です。初期段階では自覚症状がほとんどなく、CTや超音波検査でも微小病変の検出が極めて困難であるため、進行してから腹水貯留や腸閉塞(イレウス)によって発見されるケースが少なくありません。
ただし、臨床医学の進歩により治療の選択肢は大きく広がっています。かつては有効な手立てが限られていた腹膜播種に対しても、腹腔内温熱化学療法(HIPEC)や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた集学的治療の導入により、生存期間の有意な延長や症状緩和が報告されています。