子役たちの瑞々しさと対をなし、作品の世界観に圧倒的な厚みを与えているのが、舞台や実写映画で磨き抜かれたベテラン俳優陣の怪演です。
湯婆婆と銭婆の双子を一人二役で見事に演じ分けた夏木マリさんは、宮崎監督から「ヒステリックな魔女ではなく、湯屋という巨大組織を率いる経営者としての凄みを出してほしい」と要求されたと明かしています。怒号を響かせる湯婆婆と、包容力と知性を見せる銭婆のコントラストは、夏木さんの卓越した演劇的技術の賜物です。
そして、作中で最も謎めいた存在である「カオナシ」の声を担当したのは、劇団文学座に所属する実力派俳優の中村彰男さんです。言葉を持たず「ア…ア…」と喉を震わせる息遣いから、湯屋の欲望を飲み込んで巨大化し暴走する怪物的な叫びまで、すべて中村さんの緻密な身体表現と声のコントロールによって生み出されました。ネット上では「カオナシの声は機械加工やサンプリング音源ではないか」という噂もしばしば飛び交いますが、実際は熟練の舞台俳優による肉声の演技です。
さらに、ボイラー室を仕切る釜爺を演じたのは、東映映画のレジェンド・菅原文太さん。「手ぇ出すなら、しまいまでやれ!」や「えんがちょ!」といった名セリフの数々は、菅原さんのドスの利いた低音と、その奥にある不器用な優しさが融合したことで、映画史に残る名シーンとなりました。