連載当時からネット掲示板や読者アンケートを二分した「ヒロイン論争」において、なぜ第一話で運命的な出会いを果たした東城綾は選ばれなかったのか。この問いは、単なる好みの問題を超え、キャラクター間の力学と心理的バウンダリー(境界線)の観点から説明できます。
真中と東城の関係は、「小説家」と「映画監督」という互いの才能を刺激し合う共犯関係であり、真中にとって東城はどこまでも「高嶺の花」であり「憧れのミューズ」でした。心理学における投影同一視に近い状態であり、真中は東城の中に「理想の創作パートナー」を見出していたものの、生身の女性としての踏み込んだ対立や本音のぶつかり合いを無意識に避けていた側面があります。東城側もまた、奥手な性格ゆえに好意の表出を先送りにし続け、決定的な局面で踏み込む勇気が遅きに失しました。
対照的に西野つかさは、中学時代に真中からの唐突な告白を受け入れて以来、常に真中の人間的な弱さや情けなさに正面から向き合ってきました。別れや復縁、パリ留学という自立の選択を含め、西野は自らの足で立ちながら真中に寄り添い続けたのです。依存や憧れではなく、対等な自立と相互補完を選んだ真中の心理的成長こそが、西野を選んだ決定的な理由でした。